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同人音楽の感想みたいなレビューみたいなものを書いてます

【感想】 アウトチックロストサマー / liqueurprime

アウトチックロストサマー
(2019/10)
liqueurprime

公式サイト


もちこまめさんのサークル、liqueurprimeの6thアルバム。

前回の記事(2年半前!)に書いたとおり、
5thの「Che cosa fai in vacanza」はたいへん私好みの作品でした。
そのため、直後の新作である本作についても、
かなーり高いハードルを設けて期待を寄せていたわけですが……
いやはや、本作も素晴らしかった!それも、前作とは全く異なる方向性で、です。

前作は「女の子たちの休日」をオムニバス式に描いた作品で、
音楽的にも、可愛くふんわりとしたガールズポップにまとめられていました。
一方本作は、ひとりの少女にフォーカスを当てた物語が描かれ、
音楽も5曲中3曲がロック寄りのサウンド、歌詞も切実な内容であるため、
雰囲気からして全く異なるものになっています。

とはいえ、やはりこれも「もちこまめ作品」なのであり、
彼女の企画や歌声がなければ表現し得ない作品であると、私は考えています。

夏。田舎。少女。ノスタルジー。
こういったよくある題材をいかに料理しているか……とくと見ていきましょう。



◆ストーリー

本作は、全5曲で1本のストーリーになっていますが、
歌詞の大半は主人公の少女の主観視点からの内心や回想となっており、
少女の置かれた境遇や現状などの客観的な状況説明はほとんどありません。

また、作中で「白昼夢」と表現されているとおり、
描かれている場面が現実に起きている(または起きていた)事象なのか、
それとも少女の夢や妄想により形作られたものなのか、
その境界はあいまいで、判別が難しくなっています。
なので聴く側にとっては、不親切で分かりにくいと感じられるかもしれません。

ただ、こういう「あいまいさ」はおそらく意図的なものなんでしょう。
なぜならこの物語は「大人と子どもの境界で揺れる少女」を描いたものだから。

主人公の少女は、子どもの頃の夏の思い出に囚われていて、
「大人になること」を拒絶しています。
けれど、いつまでも「あの夏」にとどまることはできない。
故郷を離れ、新たな一歩を踏み出さなければならない……
少女はそのことも自覚しているから、
大人と子どもの境界で揺らぎながら自分の気持ちを整理していく。

本作は、少女が自分自身と折り合いをつけるための「内向きの物語」であり、
そこに他人が介入する余地はありません。
だから外野からみて分かりにくいのは当たり前だし、
描かれているものが現実なのか幻想なのかも、どうでもいいことなのです。

こういった「分かりにくいことに意味がある」ストーリー、
私はすごく好きだし、だからこそ色々考えたくなりますよね。



◆ジャケットデザイン

見たことない人は是非とも↑のリンクから公式サイトを見てほしいのですが、
本作はジャケットデザインがとても素晴らしいのです。

何が良いって、「夏」が境界になっていることなんですね。
向日葵や朝顔などの夏のモチーフが、
画面前方の少女と、後方の街や電車を隔てる境界となっている。

少女は結構背が高く、表情もどこか諦めたような、達観したような雰囲気だけれど、
服装は子どもっぽく、手にしたラムネ瓶からは液体の金魚が飛び出している。
液体の金魚は、少女が囚われている「夜祭の思い出」の象徴なのでしょう。
画面前方は「子どもの世界」であり、少女はまだそこに留まったまま。

一方、後方の街と電車は、「大人の世界」の象徴です。
少女は電車に乗って故郷を離れなければいけない事情があるのに、
乗車を拒絶し続け、最終電車を見送り続けている。
故郷を離れれば、大切な思い出は薄れ、いつか失われてしまうから。

子どもの世界と、大人の世界。それを隔てる、夏の境界。
本作を彩る要素が余すことなく配置されたこのデザインは本当によくできています。



◆ロックサウンド

本作は5曲中3曲がロック調の曲となっています。
もちこまめ作品はポップス調の曲が多く、ボーカルもパワーがあるタイプではないので、
ロック調の曲との親和性はあまり高くないと思っていますが、
だからこそ今回はロック調のサウンドを選択したのだろうと考えています。

個人的には、サウンド面にも「境界」の要素があると思ってるんですよね。
現実と幻想の境界。

ロック調の3曲、特に3曲目と5曲目は、逃れられない現実と、
逃れたい少女の葛藤がぶつかり合う楽曲であり、ギターサウンドの重みと、
それに押しつぶされそうになりながら必死に声を張る、
もちこまめさんの歌唱との対比があってこその音楽になっています。

反面、非ロックである2曲目と4曲目は、幻想への逃避が前に出た楽曲であり、
これらがロックと非ロック、現実と幻想が交互に繰り返されるからこそ、
本作のテーマである「大人になることへの葛藤と逡巡」が、
サウンド面からも効果的に表現されているのです。

つまり、ただロック調の曲を入れたというわけではなく、
この「アウトチックロストサマー」という作品を表現するために必要だったから入れた、
と思えるんですよね。



◆各曲感想

01-なつどりの駅
どこか寂しくノスタルジックな、ポストロック風の曲調に乗せて、作品全体の概観を示す曲。
バンドサウンドの合間に時折奏でられるピアノやオルゴールの曲が、
いい感じに郷愁に浸らせてくれます。空間をうまく使った音楽というか。

何より「蝉の鳴き声の変化」が良いのですよ。
冒頭に入る蝉の鳴き声はミンミンゼミなんですが、曲の終盤にはヒグラシになってるんですよね。
否が応にも季節は過ぎ去り、嫌でもそれを受け入れなければいけないという少女にとっての
非常な現実を表せているようで、綺麗な曲なんですがやっぱりとても寂しい曲なんです。

「夏の抜け殻が転がった」から始まり、「甘い繭のなか」「偽物の星空」「街の牢獄」など、
気が利いた比喩表現もいちいちカッコイイし、本作では一番好きな曲ですね。


02-マイロストサマー
曲調と歌詞のミスマッチが味わいのある曲です。
聴いてると気分が浮き立ってくるような、ふわりと踊るような軽快で可愛い曲調なんですが、
それは現実逃避をしているだけで、自身もそれを自覚しているから、
歌詞はひたすら卑屈な言葉が並べ立てられているのが痛々しくて良い。

現実から目を背け、夢の中に逃避している様子を、
「クジラが空を泳いだら」とか「夏草を雪が包んだら」といった、
明らかに非現実と分かる描写で示しているのが面白いですね。


03-祭囃子は夢の中
本作一番の疾走ロックチューン……なんですが、これまた歌詞が卑屈!
疾走感のあるサビが「逃げたいの逃げたいの」「苦しいの苦しいの」という。

「最後に眺めた花火の色は何だっけ」という歌詞が切ないよなあ……。
どんなに大切な思い出も、時が経てば少しずつ薄れて色あせて、そうして大人になってしまうんだ。


04-Wreath
この夏に留まり続けて、この思い出をいつまでも繋ぎ留めていたい、という祈りが込められた曲。
作中唯一のバラードで、メロディがとても綺麗で、ドラマチックです。

物語を知る上で重要なのが、歌詞の中に「金木犀」が出てくること。
金木犀は秋に咲く花で、この場面は夏祭りをともに過ごした「君」との別離のシーンと思われます。
だからこそ彼女は夏に留まろうとするのかなあ、とか思ったり。秋は別離の季節だから。

ところでWreathとは花冠という意味のようですが、転じて「輪」そのものの意味もあるそうです。
「もう何処にも行かないように 不器用で歪な輪を結んだ」という詞には色々な含意がありそう。
(本作のMVには、過去の自分と思しき子どもの首を絞めて「季節を止めてしまう」シーンがあります)


05-過ぎ去る最後の季節に
最後の曲も疾走ロックチューン。この曲も決して前向きではないのですが、
過去の自分にも後押しされながら、電車に乗り、故郷を離れる少女の様子が描かれます。

過ぎ去る季節の音に気付いてしまった
いまだけは心に灯る 誰にも秘密の気持ち
他の全てが溶けて失っても 御伽噺だと笑って


この最後の一節はどう解釈すればいいのか、かなり悩みましたが……
たぶん、この一節だけは、本作の受け手に対して向けられた言葉なんじゃないかな。
少女が抱くこの葛藤も逡巡も、いずれまた色あせてしまうから、
「御伽噺(=フィクション)」としてであっても、いつまでも繋ぎ留めていられるように。
そういう祈りから、こぼれた言葉なんじゃないでしょうか。



◆まとめ

ストーリー、デザイン、サウンドと全ての要素に必然性があり、
コンセプトアルバムとして完成度のとても高い作品だったと思います。

けっこう受け手を突き放してくるタイプの作品でもあるので、
もちこまめさんの他作品と比べると少々、取っつきづらさはありますが、
聴き込んで少女の気持ちに同調できるようになってくると化けますね。

2021年12月現在、BOOTHストア等でまだ購入できるので、気になる人は買いましょう。
『秒速5センチメートル』みたいなのが好きな人には向いてるんじゃないかな!

【感想】 Che cosa fai in vacanza / liqueurprime

Che cosa fai in vacanza
(2019/04)
liqueurprime

公式サイト


ここ2年くらい、同人音楽をまったく聴いていませんでした。
興味の対象が他に移って、なんとなく聴かなくなっちゃったんですよね。
このままフェードアウトかなと思ってましたが、今回の春M3が自分の観測範囲で盛り上がっていて、
ちょっと羨ましくなったので先日メロンブックスで見つけてきたのがこの作品です。

ジャンルは女性ボーカルのポップスで、試聴したときにまずピンときたのは
「この歌声!ななひらさん!ななひらさんに似てる!」という点でした。
鼻声がかったロリ系の声質が似ているのもそうなんですが、それ以上に歌い方が似ています。
歌に対するひたむきさ、とも言いますか。それぞれの楽曲にしっかりと向き合って、
大袈裟な言い方をすれば「音楽に命を吹き込んでいる」とも思える歌い方。
ロリ・電波系ボーカルでそれができるのはななひらさんくらいだと思っていましたが、
今作のボーカル、もちこまめさんにも確かに通じるものを感じたのです。

それもそのはずで、彼女はボーカルであるとともに、作品のプロデュースも行っています。
過去作の情報を見ても、作詞・作曲・デザイン等は外注のため毎回異なりますが、
ボーカルと企画は必ずもちこまめさんが担当しています。
ボーカル=企画である場合、基本的には「歌いたいものを作る」という方向性になるはずで、
そのためか彼女の歌からは「この曲はこういう風に歌いたい!」という強い熱を感じます。

歌の上手さとか技術とかは私はよく知りません。
しかし熱というのは知識などなくても肌で、感覚で伝わります。
そして同人音楽とは、作品を通してもっとも近い距離でその熱を受け取ることができる場の一つであり、
受け取ったからこそ私はいまここで3年ぶりに感想を書いています。


◆コンセプトについて

タイトルのChe cosa fai in vacanza(あなたは休日をどう過ごしますか)が示すとおり、
今作は「休日をひとりで過ごす女の子」をテーマとしています。

-甘酸っぱくていじらしくて、だけどちょっぴり憂鬱で、それでもきっととびっきりな休日がくるの。-

特設サイトのテキストの引用ですが、まさにこのとおりの内容ですね。
女の子ならではの色々な感情が描かれ、それらを「休日の過ごし方」という枠の中で表現している。
この枠の設定が絶妙だなーって思うんです。聴く側にも作る側にも丁度いい自由度というか。
作詞作曲も全部外注なので、あんまり設定ガチガチだと調整が大変だろうし、
かといって曖昧すぎると統一感を損ねてしまうおそれがある。
特設サイトとかCDの帯裏なんかにひっそり書いてあるフレーバーテキストくらいの情報が
イメージとしてちょうどよくて、作品の形態といい感じに噛み合ってるんですよね。


◆曲・詞・歌について

全5曲、収録時間20分程度のコンパクトな作品で、曲調は打ち込みによるガールズポップ。
作曲者は曲ごとに異なりますが、どの曲もいかにも女の子って感じの甘くてふわっとした
曲調に統一されています。おおむね、コンセプトから想像される内容どおりでしょう。
やや変化に乏しいきらいもありますが、主役はあくまでもちこまめさんのボーカルですからね。
歌い回しで十分に変化をつけているので、バランスは取れています。

アルバム構成としては、1曲目で作品全体の概要を示し、2~5曲目で各々の休日を描くというもの。
進行に従って段々と明るく、前向きになっていく構成が素晴らしいですね。
同居人が去り、広くなった部屋でひとりお茶をしながら気持ちの整理をする2曲目から始まり、
幼馴染の男の子に対する。悶々とした思いを抱えて落ち着かない週末を過ごす3曲目、
漠然とした憂鬱や不安を振り払うように、努めて明るくあろうと外に繰り出す4曲目、
ひたすら元気で前向きな5曲目と、順番どおりに聴くことで元気が湧いてくるような構成。
連休終わりの沈んだ気分もこれを聴けば少しは晴れる……かも?

そしてもちこまめさんのボーカル。上のほうにも書きましたが、彼女の歌には「ひたむきさ」を
強く感じるんですよね。今作は1曲1曲、女の子の繊細な感情が描かれており、それを歌の中で
いかに表現するかが大事なんですが、ちょっとオーバーなくらいに歌い方を変化させています。
1曲目はフラットに、2曲目はちょっと儚くアンニュイな感じに、3曲目は慌ただしく揺れを大きく、
4曲目は気持ちを抑えつつもサビで溢れさせるように、5曲目は底抜けに明るく元気に……とね。
それでいて声質が私の大好きな鼻声気味ロリ系ボイスというね。最高としか言うほかない。
万人に好まれる、ということは無いと思いますが、刺さる人にはぶっ刺さるはず。


◆各曲感想

01-私だけのWeekend
雑踏の中にもひとりひとりに物語があり、それぞれの休日を過ごしている……という導入です。
曲としては作中でもっとも主張控えめですが、こういう曲があると後の曲に対する
イメージが湧きやすくなりますね。

02-Piece of the world
同居人がいなくなった、欠けた世界でひとりティータイムを過ごして気持ちを整理するお話。
Piece of the worldというタイトルがハイセンスですよね。彼女にとって、同居人がいた部屋こそが
世界だった、という。喪失感に少し目をそらしつつ、時間をかけてゆっくり受け入れていく、
そういう複雑な感情が、溜息のような歌声によってふわっと紡がれていくのが心地よい。

03-Rocky☆Start
Mamyukka等でお馴染みのオッカさんが作曲。オッカさんらしい飛び跳ねるようなメロディが
「ちょっと気になっていた男の子から別の子に対する恋愛相談を受けて自分の恋心に気づいて
ジタバタしたりヤケクソショッピングに繰り出したりする」この曲にピッタリ嵌ってますね。
ボーカルもそれに呼応するように揺れや起伏を大袈裟なくらい強くしているのでドタバタ感が凄い。
ヒロインの子には悪いですが聴いてて大変微笑ましく、楽しい曲ですね。

04-ShinyHoliday
今作で一番の曲だと思います。前向きな曲ではなくて「前向きであろうとする曲」なのが良い。
嫌な気分を抱えつつも家を飛び出してあちこち散策して振り払おうというヒロインの気持ち、
それを汲んであえて抑え目に歌うボーカル、それらを開放するような素朴で綺麗なサビメロと、
三位一体でピッタリです。ラストのサビは夕暮れのシーンなんですが、ここの転調が一層素晴らしい。
休日が終わり日が暮れたけど、代わりに心は晴れている……その軽くなった気持ちを、
転調で表現しているんですよね。ラスサビで転調する曲じたい私は大好きなんですけど、
こんな素敵な含意まで示されちゃあ……そりゃあもう最高としか言うほかない。

05-Ready Go Round
これまでの曲にあったモヤッとした感情を吹き飛ばすようなひたすら明るく元気な曲。
サビの4つ打ちリズムの心地よさと、途中の元気一杯なラップパートがお気に入りです。
最後にこういうシンプルに明るい曲をもってくることで、
「それでもきっととびっきりな休日がくるの」というテーマに繋がるのが良いですね、


◆まとめ

久しぶりに新しく購入した同人音楽作品で、これほどの作品に出会えたのは僥倖でした。
ここ数年は商用のゲームや音楽によく触れていましたが、やはり同人音楽ならではの
作品というのは同人音楽でなければなかなか出会えないのだなと再認識しましたね。
余計な中間項を考えなくていいので、作品そのものと真っ向から向き合える、
その楽しさ、純度の高さは他ではなかなか味わえません。
今作はとにかくボーカルが最大級に自分好みであり、その補正が強くかかっているので
この感想にあんまり客観性はないと思います。
とはいえ、コンセプトの面でも十分練られているのは間違いなく、また過去作でも
今作とは大きく異なる雰囲気のものもあり、しばらくはこのサークルに注目していきたいですね。
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