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 【感想】 小さなせかい / NanosizeMir

小さなせかい
(2009/05)
NanosizeMir

公式サイト


NanosizeMirの1stアルバム。
10年以上前の作品ですが、同人音楽におけるポップスの金字塔であり、
また個人的に思い入れの深い作品でもありました。




2009年当時、私は九州に住んでおり、同人音楽はショップ委託される作品だけを聴いていました。
M3などのイベントに参加することにもちろん興味はありましたが、
高い交通費を払って行くほどのことか?という思いもあり、なかなか踏み切れなかったのです。

そんな中、2009年春のM3の頒布作品をなんとなく調べていて出会ったのがこの作品です。
……試聴ファイルをちょっと聴いただけで来ましたね、こうビビっと。
これは絶対に入手せねば!と思ったものの、ショップ委託する予定などは書いておらず、
また本作が1作目であったため、イベントのみ頒布の可能性も十分ある、という状況でした。

もし入手できなければ絶対に後悔する、という確信があったため、
私はM3に行くことを決心、節約のため高速バスで10時間かけて会場に行きました。

この時の会場は産業プラザPiOで、めちゃくちゃ混雑していましたね。
私は初参加だったのでこんなもんかと思っていたんですが、
後から知人に聞いたところ、当時のM3はボカロや歌い手などがどんどん参入してきていた時期で、
回を重ねるごとに参加者が増え、PiOのキャパではとても賄えない状況になっていたそうです。
実際、PiOでM3が開催されたのはこの回が最後でした。

一部のサークルでは開場直後に長蛇の列が出来ていたりもしていましたが、
(たしかAsrielとか結構並んでいたような……うろ覚えですが)
私の目的はNanosizeMirが第一だったので速攻で確保し、他にも20作品ほど買いました。
サイトに載っていた写真の人(水谷瑠奈さん)が普通に売り子をしていて
手渡ししてくれて、声をかける勇気は無かったんですがイベントっていいなあ~って思いましたね。

その後、私はM3にちょくちょく参加するようになり、情報交換をする知人も何名かできました。
もし『小さなせかい』がなければ、同人音楽にのめり込むこともなく、
ショップ委託作品を細々と楽しむだけで終わっていたかもしれません。
そういう意味で本作には少なくない思い入れがあるのです。




本作は『小さなせかい』というタイトルが示すとおり、歌詞だけ見ると等身大で、
日常に根付いた素朴なテーマを扱った曲が並んでいます。
例えばサッカーの話とか。働くのつれーって話とか。
採れたてトマトの話とか。ほろ苦い恋の話とか。

でも、実際に曲を聴いてみると、実に多彩でドラマティック。
さまざまな楽器が顔を出し、重厚なコーラスワークがあったり、
男女混声の壮大な大サビがあったり、変なラップがあったり……。
素朴なテーマを、多種多様な音楽のエネルギーで盛り立てている感じです。

そしてそれらをバランスよくまとめているのがボーカルとアルバム構成。
時に可愛く、時に繊細に、時に力強く歌い上げる水谷瑠奈さんのボーカルは、
歌詞と曲調をうまくつなぎ合わせてまとめる役割を果たし、
各曲のイントロに共通のフレーズを用いることで、バラバラの曲調の中にも
一本の芯が通っているような印象を受けます。

素朴だけど多種多様。混沌のようできちんとした秩序がある。
手のひらサイズの「小さなせかい」でも、そこにあるのはひとつの「世界」なんです。




本作は何というかね、「出し惜しみをしない」感じがすごく伝わってくるんです。
1曲1曲、おのれの使えるネタはすべて使って表現をしてやろう、という信念を感じるというか。
テーマ自体が素朴だからこそ、いっそう中身がぎゅっと詰まって感じられるし、
なによりエネルギーがあるんです。聴く人の心を打ち、動かすエネルギーが。
こういう前のめりなやり方って、商業作品ではなかなかできないと思うし、
同人という舞台で、しかも処女作だからこそできたことなんだろうなーと思います。

私は本作を聴いて、これこそが「ポップス」だ、と強く感じました。
何でもない素朴な出来事を、音楽の力で何倍にも高めて発信する……
音楽の、ポップスのもつ可能性を感じさせてくれた作品のひとつです。

一昔前に比べると、同人音楽にもポップスを扱うサークルが多くなりましたが、
本作は時間が経っても色あせることのない、同人ポップスの金字塔だと思っています。

CDを入手するのは難しいかもしれませんが、今は各種サブスク配信サービスで聴けるので、
最近同人音楽を知った人にも、ぜひ一度聴いてみてほしい。傑作ですよ。
プロフィール

borozo

Author:borozo

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