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[同人音楽感想] And, I wake up under the cherry blossoms tonight. /回路-kairo-

And, I wake up under the cherry blossoms tonight.
(2011/03)
回路-kairo-

公式サイト

◆分類
東方ボーカルアレンジ
オルタナティブ / ポストロック

回路-kairo-の2ndフルアルバム。
東方アレンジ界隈では極めて異質な、ポストロック系のサウンドにより
独自解釈のコンセプト・アルバムを描き出す回路-kairo-の新譜です。
前作にはストレートなロックアレンジ曲も目立っていましたが、
今作ではより複雑な構成の楽曲が増えています。
アトモスフェリックなアレンジとノイジーなギターが緩急自在に絡み合い、
前作ではアクセント的な使われ方でしかなかった
スクリームボイスや語りといった技法も、今作ではあちこちで見られます。
それゆえ、キャッチーさでは前作に劣るものの、
アルバム全体で見た場合の作品の完成度は、
前作とは比較にならないほど向上しています。

さて、ここからはコンセプトについて述べていきます。
今作は妖々夢についてのお話です。
「西行妖が満開になった、その後の世界」で
それぞれのキャラクターたちがどう向き合うか、を描いたお話。
このお話が何を伝えようとしているかについては、
まず前提として「東方妖々夢」のお話について把握しておく必要があります。

「東方妖々夢」は、未完結の物語です。
もちろん、主人公サイドからしてみれば異変は解決するので、完結しているのですが、
幽々子サイドからすると、西行妖は結局満開にならず、幽々子が見たがった
「満開の先にあるもの」の正体は放置されたまま物語は終わってしまいます。
だから、未完結。物語としては中途半端で、不完全なんですよね。
そして、東方妖々夢に出てくるキャラクターたちもまた、
中途半端で、不完全な・・・「欠けている」要素をどこかに抱えています。
半人半霊、半分ずつの中途半端な庭師とか、
「生みの末妹」を欠いたまま騒ぎ続ける三姉妹とか、
冬にしか現れることのできない妖怪とか。
何かしら、完全でない。欠けているものがある。
これはつまり、物語の構造とキャラクターの設定が呼応しているということ。

だから、今作のお話…「西行妖が満開になったら」というのは、
「幽々子の物語が完結したら」とも言い換えることができます。
さらに先述した<物語構造とキャラ設定の呼応>を反映させると、
「物語を完結させる」ことは、それぞれのキャラクター達に対し、
「自分たちに『欠けているもの』と、真正面から向き合わせる」ことと同義となります。
原作内ではそんな後ろ暗い設定なぞ露知らず、飄々と振舞う東方キャラたち。
そんなキャラたちの首根っこをグイと掴んで、二次創作という一種の横暴によって
無意識に目を背けている「欠けているもの」に振り返らせる。
今作がやっているのは、そういうことです。たぶん。

そして、自分たちの欠点と本気で向き合った上で、
「ここは完全と不完全の境界線。あなたはどちらを愛するの?」と、
キャラクターたちに、聴き手に、そして何より回路自身に問いかけているのが
今作の趣旨・・・だと思います。

それを強く示唆しているのがブックレットです。
このブックレット、表紙と裏表紙あわせて一枚の絵になっていて、
またブックレットの中にも見開きの一枚の絵が描かれています。
これらをカードの裏表になるような形において、あらためてブックレットを見てみると、
歌詞が書いてあるページが、2枚の絵に挟まれるような構造をしているのが分かります。
この2枚の絵は、「妖々夢の世界」と「満開の世界」を示しているはず。
となれば、間に挟まれた歌詞…つまり作品の本体部分は、
2つの世界の「境界線」の中に存在している、と言えるわけですね。
このブックレットの構造、気づいたときは鳥肌が立つほど感動しました。
見れば見るほど美しい。気に留めてなかった人は是非見直してみてください。

そして、「完全と不完全、どちらの世界を選ぶか」の問いかけに、
幽々子は、そして回路は作中で答えを示しています。

私を殺して
殺して初めて知った
こんなに綺麗な
羽なんていらなかったんだ

私を殺して
殺して初めて知った
こんなに綺麗な
世界がここにあったんだ


自分を殺して・・・つまり、自分自身と向き合って、初めて知ったこと。
それは、「完全な世界(=綺麗な羽)」なんていらなくて、
帰りを待つ者がいる「不完全な世界」こそが、本当に綺麗な世界だったのだ、ということ。
この幽々子の下した決断は、そのまま回路自身にも当てはまるでしょう。
進んでアンダーグラウンドという、歪な世界に身を置きたがる
回路という日陰者集団。しかし、歪だからこそ・・・完璧でないからこその美しさが、
そこにはきっとあるはず。今作からは、そうした回路-kairo-の信念が伺えるのです。

回路-kairo-という集団は、自らを「セカイ系バンド」と名乗っています。
「セカイ」の中に、自分たちの「回路」を組み込んで、再構成する・・・
そんなプロセスで、今作や前作は組み上げられています。
作品そのものに、回路-kairo-の血脈がしっかりと宿っている。
コンセプトなんて気にせず、音楽だけを聴いてもたしかに楽しめます。
しかし、回路-kairo-が作品を通じて、何を伝えようとしているか。
これを考えながら聴くと、より深く楽しむことができるはずです。
セカイ系バンドの名は、伊達じゃあないのです。

◆曲の感想
01-舞い散る夢は
「アルティメットトゥルース」のアレンジ。
物語の導入部であり、原曲の疾走感を生かした今作では割合ストレートな楽曲です。
明るげに歌う556tさんの歌唱は珍しいですが、やはり上手いですね~。
中盤に出てくるスクリームボイスのパートなんかは、今作ならではの要素ですね。

02-遠い音に乗せて
「幽霊楽団」のアレンジ。
前作の「違うということ」もそうでしたが、回路作品は2曲目に
テーマを分かりやすく示す題材を入れてくれるのでありがたいですね。
アトモスフェリックなサウンドと重いギターサウンドが同時に奏でられ、
その間を縫うように歌が入る。これは「境界線」の表現でしょうか。
間奏の、段々ギターの音が激しくなっていくパートなんかは、
実に毛さんらしい、感情の動きのあるアレンジだと思います。

03-繋がる糸の様に
「人形裁判」「ブクレシュティの人形師」のアレンジ。
比較的アコースティックな、落ち着いた曲になっていますが、
歌詞はなかなかに曲者。
「アリスと人形」の関係とも、「神綺とアリス」の関係とも、
「原作と二次創作」の関係とも、「作者と作品」の関係とも取ることができる。
つまり、「人形師と人形」の類型構造はどこにでも存在し、
人形を操る側にいても、別の視点からは人形として操られている、という話でしょう。
メタ性を持つキャラクターとして設定されているアリス。
それをアリス自身が自覚したとき、彼女の自意識はどこに見出せるのでしょう?
とかそういうテーマじゃないでしょうか。正直自信ないです。難しい。

04-小さな温もりと、
「ティアオイエツォン」のアレンジ。
イントロが印象的。式神の召喚儀式とか、そういうイメージかな?
数式で構成される、つくりものの容器。
その空虚さと、藍との絆の間で揺れる心情を語ったものでしょうか。
橙に関して、こういうシリアスなアレンジが組まれるのは珍しいですが、
非常に回路らしい切り口とも言えますね。

05-懐かしい場所と、
「クリスタライズシルバー」のアレンジ。
ギターサウンドが唸りを上げる重たいアレンジ。スクリームボイスもバンバン出てくる。
レティは「冬に現れる妖怪」なんですが、これを「冬が過ぎると居なくなる」と
解釈してしまうのが実に回路的。「君」というのは誰のことでしょう・・・チルノかな?

06-君の声と、
「東方妖々夢」のアレンジ。
これは会心のアレンジでしょう。アトモスフェリックな立ち上がりから、
囁くような優しげな556tさんの歌唱が聴け、歌詞の進行・・・感情の昂ぶりに伴って
サウンドは激しさを増していく。スクリームボイスを交えた間奏を終えたあとの、
「感情の先にある 迷いさえ断ち切って」のところの歌い方が鳥肌モノ。
556tさんは声楽出身だそうですが、それも納得というものです。
「感情の動き」を演奏と歌に連動させて表現していく…繊細かつ大胆なアレンジ。

07-在るべき世界を
「ネクロファンタジア」のアレンジ。
KENTOさんのアレンジは初かな?それにしても大胆なアレンジ。
歌唱部分はサビだけで、あとは語りとスクリームボイスだけで進んでいく。
しかし、だからこそサビが非常に引き立って聴こえます。
ラストの
「この夜に生まれた孤独を 一つ一つ拾い集めて
 この世界の儚く美しい 境界線を描く」
というのは本作を最も端的に表現した箇所でしょう。
幻想郷を俯瞰し、誰より愛する八雲紫の心情がよく表れた、良い曲だと思います。

08-此処に紡ぐ
「幽雅に咲かせ、墨染の桜」のアレンジ。
「完成された物語」を見てしまった、幽々子の決断。
これまでの楽曲で重ねてきたものが繋がり、
最後の最後に奏でられる、墨染の桜のあの名フレーズ…!
もはや聴き飽きたあのフレーズが、こんなにも美しく、新鮮に響くなんて…
なんというニクい演出でしょう。
いやあ、もう、本当に素晴らしい作品でした。感無量なり。
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